ご近所さん

私の住まいはフラットと言って、日本のマンションに相当する建物で、1800年代の中頃に建てられた。地下から数えて6階建のこのフラットには、地下に2世帯、その他は各階1世帯が住んでいる。

我が家の表通り

この通りにあるフラットの外観はほとんど同じだけれども、フラットのサイズやレイアウトはそれぞれ異なり、ワンルームのスタジオフラットもあれば、メゾネット、ロフト付きのフラットもある。

我が家は3階にあり、小さなバルコニーが付いている。

実際、小さくても外空間があるってことはありがたい、時にロックダウン中はしみじみその有り難みを感じた。

見た目はいいけれども、古い建物なのでいろんな欠陥がある、特に防音、騒音問題!

一応、床に防音対策はとっているけれども、やはり隣近所の大きな音は聞こえてくる。

でも音に関しては、気にならない音とそうでない音があり、その時の気分や精神状態がおおいに関係してくる。

ロックダウンになって、自宅でオンライン勤務の人が増えると、いろいろな所からzoomでミーテイングをしている音が聞こえてきた。私もそうだったし、大学生の次女もオンラインで授業を受講していて、時々ブラジル人の教授の大きな声が家中に響いていた。

いつからか、大声で話す中年のアメリカ人女性の声が気になり出した。この声の持ち主はどうやらうちの裏の建物か、(うちの建物との間は1m 弱)2、3軒隣りあたりの地下のフラットから来ているようだった。とにかく声が大きく、いつも誰かに自分の近況を報告していたので、「またあんたー」ってな感じで周りの住民もその声にうんざりしていたはずだ。

ある日、長女が料理をしていると、「ヘーイ、ご近所、今何作ってんの?めちゃくちゃいい匂いするやん。」とそのアメリカ人女性が問いかけてきた。

その時、長女はベトナム料理を作っていて、確かにニンニク、しょうが、ニョクマムのいい香りが

台所に充満していた。

結局うちの娘は、そのアメリカ人の問いかけには答えなかったけれども、うるさいなーっと思っていたその声が、それ以後、なんか率直で可愛いなーと感じはじめ、彼女の大声はしだいに気にならなくなってきた。

フラットの裏側

さっきも誰かがオペラの練習をしていた、多分プロだと思わせるぐらい上手だった。

時々、夜遅くにパーティーの音楽が聞こえてくることもある。ほとんどが5、6軒先ぐらいの距離からなので、我慢できるかどうかは、その音楽が私の好みかどうかで変わってくる。大好きなラテンポップは許せる、むしろ風に乗ってやってくるその音は、南国を思わせ、旅行気分で、気がついたら、こちらも同じメロデーを口ずさんだりしている。でもグライムやトラップのような音が聞こえてきたら、イライラがつのってやってられない。そのうち誰かが地域の騒音の苦情係に電話するのか、急に音がピタリとやむ。

昨夜、一階に住むナイジェリア人家族にお客さんがきていたんだろう、午後11時を過ぎても、その家族の賑やかな声があたりに響いていた。

その時思い出した、その人たちのま下に住むイギリス人女性が、一度ナイジェリア人家族の声のあまりの大きさに切れて怒鳴りにいった事を。昨夜は今年初の熱帯夜だったから、みんな窓を全開にしていただろうし、さぞかしイギリス人の隣人は苛立っていたに違いない。

異国の味

はじめて食べた外国料理が、中華またはイタリア料理のパスタかピザだったという人はとても多いと思う。オーストラリアの小さな町に生まれ育った夫と大阪育ちの私にとっても、中華がはじめての異国の味だった。もちろん本格中国料理じゃないけれども…

もはや簡単な中華風炒めや、パスタ料理にかんしては外国の料理のはんちゅうに入らず、世界のいろんな家庭で気軽に作られている料理に格上げされている。

どこの家でもスパゲティトマトソースを作っているだろうし、スパゲティボロネーゼは子供たちに大人気だから、子供のいる家庭の定番メニューのはず。

中華にしても、スーパーでソース付き野菜炒めのパックが買えるので、これらを家で作る人は多いと思う。私のイギリス人の同僚も「昨日は焼きそばを作った、チキンと野菜を中華風に炒めて食べた!」なんてよく言っている。

カレー、カバブ、タコス。移民と共にどんどん新しい味がロンドンに定着してきた。

そんな中で、「最近つくづくロンドナーの食生活に欠かせない食べ物になったなー」と感じさせるのはレバノン、シリア、ヨルダン、エジプト、イスラエルなどで作られているHummus。(日本語読みをしたらフムスまたはホムスって感じ、人によって発音が違う。)レバノン人の友人が言うには、「Hummusの発祥地は領土問題と同じで、各国が所有権を主張しているので、レバノン人に聞いたら、レバノン、エジプト人に聞いたらエジプトがHummusの故郷と熱く主張しだすから埒があかない」だからこの話は彼らとしないに越したことはない!

ホムス

Hummusは茹でたひよこ豆、タヒニという練りゴマ、オリーブ油、にんにく、レモン汁を混ぜて作ったペーストで、ピタパンと一緒に食べたり、きゅうり、赤ピーマン、セロリ、人参のステックにつけて食べたり、ピクニックやパーティでのおつまみには欠かせない人気食品。私が働く小学校でも、おやつやランチにHummusと野菜のステックを持ってくる生徒がけっこういる。今や多くのロンドナーの冷蔵庫の中にはHummusが入っているのでは?

そしてここ最近ロンドナーが愛してやまないのが、お寿司であるSushi。いやー30年前、25年前には考えられなかった現象だ。Sushiがスーパーで売りだされた当初、「あんなご飯がプラスチックのように固そうなSushiは、絶対に食べたくない、買いたくない」と思った日本人は多かったと思う。

最近では家庭でSushiを作る人も増えてきている。Sushiの作り方を教える料理教室も人気があるそうだし、友達の中にも本格的に日本食材店でお魚を買ってSushiを作る人から、定番のスモークサーモン、アボカド、キュリのみで作る人まで幅広くいる。

私が働く小学校でも「一番好きな食べ物はSushi」とか「昨日の晩ご飯はSushiやった。」という子供たちが結構いて、これを聞くたびに「この子たちを日本の回転寿司に連れて行ってあげたい」とつくづく思う。

一度日本人の友達に来てもらって、2年生の子供たちと一緒に巻き寿司を作ったことがあるが、子供達は大喜びで、その父兄にもとても感謝してもらった。同じ経験をした日本人も多いんじゃないかな?

美味しい寿司飯と、新鮮な魚貝をふんだんに使った、日本で食べられているお寿司とは違うSushiだけれども、自分の国の料理がこんなにも多くの人々に愛されている事を、私も素直に嬉しく思う。

ケーキ

あくまでも私個人の経験、意見だけれども、ロンドンにはお手頃価格で手土産になるようなケーキを扱っているお店が少ないように感じる。

日本には、洋菓子、和菓子の専門店の選択肢がすごく多い。高価な洋菓子でなくても、シュークリーム、プリン、ゼリーの詰め合わせとか、おはぎや大福の詰め合わせとか、お煎餅類と、ちょと軽くお茶に呼ばれたりする時に買って持っていけるような品がとても豊富だ。

ロンドンには、そんなお店も選択肢も少ないのでは?

私の場合、夕食にお呼ばれする時はワインや花束を持っていく。でも午後のお茶、軽いランチにお呼ばれした時、お花やチョコレート以外に何か甘いものを持っていきたい時に、何を買おうか迷ってしまうことが多い。

そもそもロンドンには、大陸ヨーロッパにあるような本格的なケーキ専門店が少ない気がする。

私が知っているケーキ屋さんと言えば、日本人がオーナーシェフのLanka, エクレア専門店のMaitre Choux, Lisboa Patisserie,カップケーキで有名なPrimrose Bakery,The Hummingbird BakeryやKovaと数えるほど。

パン屋さんとカフェが一緒になっているお店でケーキも売っているケースが一番多いようで、日本でもおなじみのPaul, Gail’s Bakery、Ole &Steen、Patisserie Valerieや、他にもWhole Food、チャイナタウンにあるケーキとお菓子のお店と思いつくのはこんな感じ。

ケーキ専門店のケーキは、どれもみんな美味しそうだけども、お値段が高めで、気軽に買う気にはならない。せめてケーキ専門店の高級ケーキと、スーパーで売ってるケーキの間に位置するレベルのケーキが増えてくれたらいいんだけれども….日本にあるロールケーキのような….

だからなのか、オーブンの利用が多いからか、この国では家でケーキを焼く人が多いと思う。ケーキ作りを競うテレビ番組British Bake Offの人気でさらにケーキのレシピ本が売れているらしいし、私の友人もみなカップケーキ、キャロットケーキ、チョコレートケーキ、バナナケーキなんかはみんな自宅で気軽に焼いている。

確かにシンプルなケーキなら自分で作った方が味も値段も保証されているし。

ところで、今これを書いた後に日本人のお友達、S子ちゃん宅にお茶によんでもらった。なんとS子ちゃんは抹茶ロールケーキを作ってくれていた。そのケーキを一口食べた瞬間あまりの美味しさに、私も娘達も歓声を上げてしまった。あーずっと求めていた最高の味!

S子ちゃんが作ってくれた抹茶ロールケーキ

S子ちゃんと娘のHちゃん親子は、天然酵母のパン、手作りパスタ、自家製ラーメンとなんでも家で作る。紅茶の味にもとても詳しく、彼女たちの家に遊びに行くといつも美味しいもので歓迎してもらい、私達家族は心もお腹も満たされて自宅に戻ってくる。

Hちゃんもロンドンの美味しい店をよく知っていて、今日も日本で売ってるようなケーキを作っているお店、Wa Cafeの事を教えてくれた。早く行ってみたい!

そお言えば、もう10年ぐらい前になると思うけれども、ロンドンにもビアードパパがあった。子供たちも好きで、お店の前を通るたびに甘いカスタードの匂いに惹かれてシュークリームを買っていたけれども、いつの間にかお店はなくなっていた。ロンドンでは商売が成り立たなかったのだろうか?

ケーキ専門店じゃなくてもいいけれど、MorozoffとかKonigs Krone,Yoku Mokuのようなお店がロンドンにもあったらなーと心から願う。

チャイナタウン

チャイナタウンにある大好きなチャイニーズレストラン、Golden Dragonが今日2020年8月1日に再オープンすると聞き、さっそく次女と一緒に行ってきた。

うちからチャイナタウンは歩いて1時間の距離。途中ケンジントンパーク、ハイドパーク、バッキンガム宮殿の横、グリーンパークを通って行くので、散歩がてら気持ちよく歩いていける。

チャイナタウンのメインストリートは歩行者天国の上、今日は各レストラン、外にたくさんのテーブルを出していて、どこもかしこも満席。どの人もとても満足そうに食事をしていて、それを見ているだけでこちらの気分も踊り出す。

普段、週末のGolden Dragonのランチタイムの待ち時間は午後2時を過ぎても平均30分から40分だけれども、今日は5分と待たなかった。私たちお客にとってはありがたい事だけれども、いつもの忙しさを知ってるだけに、これにはなんか寂しさを感じる。特にチャイナタウンは新型コロナウイルスがヨーロッパに感染拡大しはじめた2月前後から経済打撃を受けており、この先もしばらくは以前のような活気が戻るまで時間がかかるんだろうか。

今までチャイナタウンの色々なレストランを試してみたけれども、飲茶はGolden Dragonが最高だと思う。特に小籠包、エビとニラ餃子、エビの腸粉、大根餅の味は調和の取れた旨味が凝縮している。

あー至福の時間は1時間で終わってしまった。

主婦としていろんな料理を作ってきたが、飲茶だけは自分で作るよりも、飲茶マスターにお任せしたい。私にとってこれだけはレストランでプロに作ってもらいたいと思わせるのが飲茶。

あんなジューシーな小籠包の肉汁は作れないし、初めから挑戦しない!

帰りは行きとは違う道を歩いた。人通りが多いオックスフォードストリートに出たら、デモ行進に出食わした。

「マスク着用、反対」

「政府の言いなりになるのは反対」というプラカードを持っている。

本当にいろんな意見があって、それを自由に発信している。その賛否はどうであれ、これもロンドンやなーって思わせた瞬間だった。 

多民族都市ロンドン

私にとってロンドン生活の最大の魅力は、この町が多民族都市である事。いろんな文化をまじかに感じる事ができ、外国の中にある別の外国が垣間見れる事。旅行好きな人にはたまらない魅力。私はいまだにチャイナタウンに行くとなんかワクワクしてくる。

ロンドンは外国人である私にはとても住みやすい町。

2011年の国勢調査ではロンドン人口の約37%が外国生まれで、2018年の統計結果を見ると私が住んでるウエストミンスター地区の住民の50%、なんと半分が外国生まれとあった。(The Migration Observatory at The University of Oxfordのデータ参照

国勢調査に参加しなかった人達や短期滞在者もいるので実際にはその数はもっと上回るはず。

フランス人の友達が言うには、第6番目にフランス人の人口が多い町はロンドンとの事。

EU離脱の今後この数は減っていくと思うが、今のところロンドンにはボルドーよりも多くのフランス人が住んでいるという事になる。オーストラリアのメルボルンはギリシャ人の人口が3番目に多い町と聞いた時は妙に感じたが、ロンドンにフランス人が多い事は、サウスケンジントンにある大規模なフランスの学校(幼稚園から高校まで含むLycée Français)を見ても実感する。

国別に見るとポーランド、インド、パキスタン、アイルランド出身者が多い。

これには納得。私が通勤に使うバスは、毎朝建設現場に向かうポーランド人男性でいっぱいだし、いつもヒースロー空港に着いてすぐに目にするインドやパキスタンの人達の顔を見ると妙にロンドンに戻ってきた実感がわいてくるからだ。

「バスの中の乗客はみんなアジア人やー。」

「今この中で、英語で会話してる人いてない!」 

こんな光景は日常茶飯事。

考てみたら私の同僚の半分も外国生まれ。スタッフミーテング中に難しい言葉がでたりする時 「今の言葉、絶対外国人のスタッフはわかってないでー」なんて思うこともあったり。

あとでブラジル人の同僚に「さっき、なんて表現してたっけ?」と聞くと案の定「えー私もわからんかった!」ってな事があるある。

ロンドナーはいろんなお国なまりの英語に慣れているので、こちらの発音や英語力がどうであれ、忍耐強く、相手の言ってる事をきいてくれている人が多い。そもそも、英語圏のネイティブスピーカーどうしでさえ、お互いなにを言っているかわからない場合もあったりする。

夫の家族が北アイルランドを旅した時、同じ英語圏どうしにもかかわらず、相手の言ってる事がわからなかったことが何回かあったらしい。オーストラリアの英語と北アイルランドの英語のアクセントの違いは関西弁と東北弁ぐらい音が違う。ドキュメンタリーを見ていて、なまりの強いスコットランド人が話す時、字幕がつくことがあるぐらいだから、私も自分の発音は気にしない、気にしない。

この多民族性に慣れて、好きで、もう他のところに住めないって人にもたくさん出会った。

とにかくなんでもありで、ロンドンとロンドナーは懐が深い。

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かれこれロンドンに住んで30年以上の月日がたった。ここに住み出した当初は、ごめんロンドン!この町に対して批判的だった私。特に食べものに関しては「どこ行っても、まずい食べものばっかりや~。」 「 何これ、味ついてないやん。」 とはよく言ったものだし、ロンドンにくる前に、陽気なスペイン人に囲まれて2年間マドリッドで過ごした私にとっては、相対的に見てイギリス人は取っ付きにくいと感じてしまっていた。

それでも月日と共に、私もいつの間にかロンドナーの仲間入りをしていた。ロンドンオリンピックの時は、自分の住んでる町でオリンピックが開催されることに大喜びではしゃいでいたし、いつからか地方各地からのイギリス人観光客から道をたずねられるようになって、自分がロンドナーと見られているのが嬉しくなってきたり。

何よりも、結婚、出産、育児、仕事を通じて地域と繋がっていった今は、この町が大好きになり、ロンドンとここで出逢った素晴らしいロンドナーに大感謝している。

当たり前だけれど、この30年の間に私も変わり、ロンドンも更に国際都市として変化、発展し続けている。例えばロンドンの変化の一つに、少なくともロンドナーの食事情があるような気がする。食に関心のある人が増えたような。英語でFoodieというと、ちょと味や素材にこだわるグルメな人を指すが、私の周りでもFoodieな人たちが増えているように思う。

私がこの街に住み出した80年代の終わり頃は、大陸ヨーロッパで見られるような素敵なカフェはロンドンにはまだ少なく、外食してもはずれだと思った経験が結構あった。美味しい料理を提供するGastroPubのようなコンセプトもまだあまりなかった気がする。でも最近はストリートフードマーケット、ファーマーズマーケットも増えたし、食に関するテレビ番組も増えたし、ロンドンでも十分美味しい物を食べれる機会がある。

様々な国から来た人が多く住んでいる多民族都市ロンドン、ここでは世界中の食べ物を気軽にいただける機会が、その喜びがある。これこそがロンドンの魅力のひとつ。なんやかんや言っても美味しい物を食べれたら、人はみな幸福感に包まれるし、異文化を体験、理解していくのに食から入っていくのは一番の近道で楽しいやり方だと思う。

ロックダウン中は、もっぱら近くの公園を散歩。Hyde Parkにいると田舎にいる気分。
近所を散歩。

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