救急外来

先日、次女が転んで右足を怪我した。すぐに夫が病院の救急外来(Accident and Emergency)に娘を連れていき、その日は骨折はなしとの診断を受けた。

後日、レントゲン結果で不明な点と血栓の疑いもあるとの事で、また戻ってくるように病院から指示を受け、夫がまた救急病院に娘を連れていった。

初回に病院に行ったのは火曜日の真夜中12時で、2人が家に戻ってきたのは午前3時半。待ち時間は2時間でこれは予想通りの結果。

翌日夫と娘は「真夜中の救急外来には、なんか不思議でもの悲しい光景が広がるわー」なんて言いながら、アル中になり全てを失ったと言う男性が、夫の横に座り自分の人生を夫に語り出した事、「もう3日間何も食べてないから、倒れそうや」とい言いながらレセプションに入ってきた女性、その女性にサンドイッチをあげていた看護師の話、大量のボリュームでTik Tokを見てた若者がご機嫌悪そうな看護婦に、ものすごい勢いで注意されてた事など感慨を込めて語ってくれた。

でも2度目の救急外来の経験は初回と違い、医療現場の大変さをしみじみ感じたよう。体力が消耗していた娘は思わず2度泣いたと言っていた。

夫と娘が2度目に救急外来に着いたのは金曜日の午後6時、とても混んでそうな時間帯だったけれども、病院からすぐに来てくださいとの電話が入ったので、長い夜を予感した2人は軽く食べてから救急外来に向かった。

午後6時にレセプションに着き、家に戻ってきたのは翌朝の午前3時。外来に着いてから担当の医者に緊急手術が入ったのと、順番後2人と言うところで、また緊急の患者がきたので、娘と夫は9時間も待つはめになった。ちなみに9時間あれば、ロンドンからドバイに飛行機で到着する。

その夜、夫と娘が目にした光景はドラマの脚本になるような強烈なものだった。

待合室はとても混んでいて、どの人も疲れきった表情をしている。

まずは、息ができなくて苦しいとうめきだす女性が娘の隣に座り、その女性はまる2時間ずーっと泣き続けていた。

前方には、怒りに満ちて、横柄な感じの中年男性が電話をしながら歩きまわり「俺はいつも人によくしてるのに、なんでこの俺がこの待遇を受けなあかんねん」とかなんとかと静かな待合室にいた人全員が聞こえるぐらいの大声をはりあげて話ていたらしい。その後その男性はどこかに消え、その間に看護婦が出てきて「ミスターなんとか」と消えた男性らしき人物の名前を呼んでいる。

しばらくすると男性は戻ってきて、レセプションに自分の番はまだかと聞いた。

「あなたの名前が呼ばれた時にあなたはいませんでしたので、あなたのリクエストはキャンセルされましたよ」とレセプショニストに言われた瞬間、その男性は、怒り狂い出し「俺は医者や、医者やから自分は今にも倒れそうなんがわかるんや~、どおしてくれるんや、早く医者にあわせろ」とすごい剣幕で怒鳴り始めた。その男性のとった態度はあまりにも偉そうだったらしい。

ずーっと大声でうめき声をあげている男性が入ってきたと思えば、肩を脱臼した女性がキャー、キャーと始終叫び声をあげ、またもや娘の隣に座る。

疲れきって、頭がボーッとしている時に、娘の前方に身長が2mはありそうな、背が高くて、いかつい姿をした男性が登場、とその瞬間その男性の後ろに鉄のチェーンでつながれ、手錠をされ囚人服姿の男性が現れた。その囚人は異様なまで不気味な笑顔を周りの人間に投げかけ続け、娘は囚人と一瞬目があい、その瞬間震え上がったらしい。

夫も「やっぱり囚人にはあれぐらい厳つい、いかにも訓練されてるボデーガードがついているんやな~」と感心していたほど、その光景は映画のワンシーンのようで、囚人はともかく、セキュリティーガードはファションといい、マフィアのような感じだったらしい。

次に怒りとイライラをセキュリティーガードに向け、ブツブツ言いながら中年の女性が待合室に入ってきた。その瞬間その女性は「やめて、こんな所に私を残さんといて、見て~やみんな外人ばっかりやん、こんなところでまつん嫌や~」と叫んだらしい。確かにそこにいたのはみんな外国人っぽい人ばっかりで、差別的発言と捉えられるものの、その女性もご先祖様は外国人とわかる容姿をしていたらしい。

何よりもハイライトは、具合の悪そうな娘を連れて入ってきた中年女性。レセプションで「娘は息ができにくく今にも倒れそうやから、今すぐ医者にみてもらって」と大声で叫んで入ってきた。

娘が診察してもらっている間、一度外に出ていった母は、戻ってくるなり看護室のドアをノックし、娘がどこにいるか聞き出した。「今他の患者さんを診ていますから、ちょっと待ってください」と返答されたその母は、それを聞いたとたんにブツ切れ状態になり、ジャマイカ訛りの、しかも聞き取りにくい方言で約10分以上、大声で全てを罵り出し始めた・

待合室はシーんとしていたので、本当にその女性の1人芝居だったそう。

しばらくして、セキュリティーガードやってきて、女性をなだめ始め、女性も徐々に落ち着きを取り戻したらしい。

後になって、娘と一緒に帰路につく際、さっきはあんなに怒っていたのに、何事もなかったようにレセプショニストに笑顔でバイバーイと手を振って帰って行った女性の姿に、みんな呆気に取られていたと言う。

体力消耗して戻ってきた娘と夫。でも今回の経験でさらに医療関係者への感謝の気持ちが高まったとと2人は言う。

医療関係者の皆さん、日々言葉の暴力にも耐え、本当にお疲れ様です、そしてありがとうございます。

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