スクワッター

イギリスではスクワッターと呼ばれる、空き家や空きビル、居住者が留守中の家屋などに占領して無断に住みつく人達がいる。

私も30年ほど前に、スクワッターとして空き家に住んでいた知人を訪ねたことがある。

その知人はもちろん家賃を払わず、電気も何か細工を仕掛けて無料で使っていた事を除けば、ごく普通に生活していた。

知人はお金が全くなかった訳ではないけれども、病弱で休職中だったのと、実家と仲違いしていて、親には頼れない立場にあった。

社会現象だったかどうかはわからないけれども、70、80年代のロンドンにはかなりの数のスクワッターがいたと言う記事をよんだ事がある。

でも最近ではスクワッターなんて言葉は聞くことがない。

それが6月から、隣のアパートの地下、正式にはベイスメントと呼ばれている地下の、ひさしがある入り口にスクワッターが住み出した。

うちのアパート(イギリスではフラットと呼ばれる)の隣の建物は、このあたりの自治体が建物全体を買い上げて、高級アパートにリフォームされる予定。ただまだ我が家を含め近隣の住民が、自治体が示すリフォーム案に賛同していない為、工事は先延ばし状態になっていて、隣の建物はしばらく空き家となっている。

どこでどうその情報を聞き付けたかはわからないが、しばらくしてからホームレスの人が、ひさしのあるその場所に夜だけ寝泊まりに来るようになった。

スクワッターが来るたびに、近所の誰かが警察に通報して、警察が退去をいいにやってきたりしていたけれども、スクワッターは室内にはいったわけではなく、入り口先にいるので、不法侵入にはならずに逮捕はされる事はない。

だからか、しばらくするとまた別のホームレスの人がやってきてそこに居座るようになり、また誰かが警察に通報して退去といういたちごっこが何度か続いた。

そしてある日、外見的にも小綺麗で、穏やかな感じの男性が住み出すようになった。

その男性と話す我が夫も「このスクワッターはめちゃくちゃ礼儀正しいし、仕事もやってるらしいで、故郷(カーボベルデ)には4人の子供もいて、何があったかわからんけれども、大変そうや、早く家が見つかってほしいなー」と言って、気の毒で、警察に通報するどころか「空き家が必要な人はどうしたらいいか」なんてスクワッターの為に地上自治体に電話をかけたりもしていた。

それでも日が経つにつれて、多分そのスクワッターの精神状態が不安定になってきたのか、彼の居場所はかなり散らかりだし、食べ残しがそのまま放置されたりして、さすがに近所の住民もスクワッターの存在に辟易しだし出した。

夫が「どうなってるんや」とスクワッターに尋ねると、その彼は「自治体が部屋をみつけてくれたので、来週の水曜日にここを立ち退く予定やねん」と言う。

スクワッターの大量の荷物を見て、夫が「ちゃんと片付けて、綺麗にして出て行ってくれよ」と言うと「この荷物は貧しくて困っている人に寄付する服やねん」と言ったそう。そのスクワッターはいろんなところに捨てられている服を拾ってきて、それらをチャリチィーに寄付をする予定だと言う。

そのスクワッターが去る時、自治体からか、ソーシャルワーカーが来て彼の引っ越しを手伝っていた。

私が出先から戻ってくると、今までスクワッターがいた場所は、かつてないほどきれいに片付けられ、入り口には頑丈な鎖がかかっていた。

イギリスではもし空き家や空きビルにスクワッターが12年以上住み続け、それを証明する事ができたら、Squatter’s Rightsと言って、法的にスクワッターがそこに住む権利を得る。そんな事があるので、スクワッターには誰も長く居着いてもらいたくない。

確かにゴミの問題やら、治安の問題とか、スクワッターに居着かれるのを好む人はあまりいないだろう。

でも、人生で住むとこがないって言うのはほんとに大変やね。

隣にスクワッターがいるのは嫌やけども、あのスクワッターさんの今度の人生がよくなっていく事を心より願う!

まだ比較的片ずいているときの様子

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