忘れていた夢

先日古くからの友人、イタリア人のGとF夫妻がロンドンに来て、Gとは11年ぶり、Fとは20年ぶりの束の間の時間を楽しんだ。

夫と一緒に彼らが泊まっているホテルのロビーに行ったものの、私の脳裏に浮かぶGとFは、最後にあった時のイメージのみ。だから20年間もあっていなかったFが目の前に現れた時は、さすがにその人物がFである事に一瞬気がつかなかった。ふさふさだったFの黒髪は、綺麗なシルバーグレイに変わっていて、あまりに時が経過していたことを実感!

GとFとの出会いは、私が当時通っていた英語学校。Gは私のクラスメイトで、私達はすぐに意気投合し、当時はまだGの彼氏であったFと私の夫と4人で食事をしたり、出かけたりして私達は親交を深めていった。

夏にイタリアに旅行に行った時は、Gの家族、Fの家族のおうちにご招待を受け色々とよくしてもらい、後には結婚式までも招待してもらい、お互いの長女が1歳の頃までは、私達は年に2度はGとFに逢っていた。

2人に出会った頃、彼らはまだ大学院生と大学生。いい成績で卒業するのが重視されているイタリアでは、何年もかけて卒業するケースがあって、Fがエンジニアの学位を取ったのは、確か彼がもう26歳ごろになっていた気がする。

そして今、Gは大学教授になり、Fは土木工学者としてイタリア警察で働いている。

2人は着々と勉強してきて、自分の好きな事でキャリアを積み、素晴らしく輝いて見えた。

当時の私は語学学校に通い、自由な時間を楽しんでいた。ただ地中海料理の専門家になって、料理の本を出版するのが夢で、Gのマンマにもいくつかイタリア料理のレシピを教えてもらったし、それに向けて私なりに努力をしていた。

だから先日Gに「最終的にお料理の本は出版できた?」と聞かれた時、その夢をまだかなえてない、というよりその夢を断念した自分を思い出し、私はちょっと情けなく、あ~いったいこの20年間何をしてきたんだろうと自責の念にかられだした。物事をコツコツと続けていく事の大切さ、これこそが自由を求めすぎてきた私にかけている事と心から痛感。

それとともに、自分がめちゃくちゃ地中海世界に憧れていて、今でもそれらの情熱は自分の中にあることを認識し、私が学んだ数々の美味しい地中海料理が脳裏にうかんできた。

「そうやあんなに美味しくて、新鮮で、健康にいいレシピを集めててんや」

私のイタリア料理の経験は、まさにGのマンマと Fのマンマの味が基礎になっているので、その後どんなに美味しいと言われているイタリア料理をいただく機会があったものの、2人のマンマ達が作る味に勝る味に、いまだかつて出会っていない。

Fがよく「僕のマンマは本当に料理が上手や、その中でも一番美味しく作るのは、豆のパスタPasta e fagioliや!」と言っていて、初めてそのパスタを口にした時は本当にそのおいしさに感動して、こんな料理を日本に紹介したいと強く思った私がいた。

Pasta e fagioliはフジィリ、マカロニ、短いスパゲティーなどいろんなパスタのミックスと、玉ねぎ、トマト、セロリ、ニンニクをオリーブ油で炒めたソース、よくゆでたお豆(Brolotti)水を加えて一緒に茹でた、レストランではあまりお目にかからないナポリの郷土料理。

人生でキャリアを築いてこなかった私は、その事を時より後悔してきた。けれども食には、特に地中海世界の食文化にはとても情熱を持っていて、それらに関していろんな事を学んできた。今回のGとFとの時間は、そんな自分がいた事を思い出させてくれた。

 

さあ久しぶりにPasta e fagioliを作ってみよう!そして出版にはこぎつかなかったけれども、自分が書き上げた原稿をもう一度見てみよう。

GとFと逢って、私の中で忘れられていた夢がまた蘇ってきている。

 

 

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